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番外編 第弐話 『 オレとアイツと 』

ソイツは、何の前触れもなく唐突にオレの前に現れた。

衝撃だった。

思わず立ち尽くして、ソイツをまじまじと見つめてしまう程に動揺もした。

今まで多くのヤツに出会ってきたけれど、こんな衝撃は久々だった。

身体の芯をがつんと殴られるような、何かが身体の奥から湧き上がって全身を震わせるような、感動にも似た強烈な一撃。

何なんだ、コイツ ──!

それが、数秒の空白を経て衝撃から立ち直ったオレが最初に抱いた相手の印象であり、実に率直な感想だった。

ソイツは、一見、どこにでもいる何てことのない ── 言葉を選ばないなら、実に詰まらない ── 外見をしたヤツだった。 いや、そう言うと少々語弊があるかもしれない。

例えて言うなら ・・・・・・ そう、若者の溜まり場にいる外人、だろうか。 ぱっと見た瞬間に見る者に少しの違和感を与えつつも、身に纏うファッションはその他大勢と同じで周囲に溶け込んでいる ── そんなヤツだった。

最初に見た瞬間は、そうだった。

だが、ソイツをじっと見て、オレはソイツがまるで他の連中とは違うことに気がついた。

ソイツは周囲のその他大勢に埋もれながらも、鮮烈な光をその身に纏ってでもいるかのように強烈な存在感を放っていたんだ!

まさに輝いていた!

そして、オレはもう一つ気づいた。

その他大勢に紛れ凡人と見せかけて、その実ソイツは高貴な気配も同時に纏って、周囲を睥睨してもいたんだ。

オレとはまるで違う次元に住むヤツだと、そう思った。

オレは、思わず緊張で手が汗ばむのを感じた。ごくりと喉が鳴るのを聞いた。

立ち尽くしたオレを通行人の怪訝な視線が舐めていくが、その時のオレは恥も外聞も何もかも気にならなかった。 正確に言えば、気にする余裕がなかった。

オレは、ソイツに一歩近づいた。 互いをはっきり視認出来る距離だ。 なのに、ソイツはまるでオレなど眼中にないと言わんばかりに、こちらのことを気に留めもしない。

いや、それどころかつんとすました顔で、何者にも何事にも無関心、この世に執着するものなど何もない、執着するなんて馬鹿のやることだとでも言いたそうなクールな視線で、ぼんやりと中空を眺めていやがった。 ソイツ以外の全てを見下していやがった。

だが、不思議とオレはソイツのその態度に嫌悪することはなかった。 それどころか、反対に興味を惹かれた。 ソイツのことをもっと知りたいと思った。 互いの距離をもっと縮めたいと思った。

だから、オレはまた一歩、ソイツに近づいた。

その時だ。

通行人の一人がオレの隣で立ち止まり、オレが勇気を持って縮めようとしていた距離をあっさり踏み越えて、ソイツに手を伸ばしたのは。

オレが目を剥く前で、通行人の一人は何食わぬ顔でそいつの手を取り、瞬く間にソイツをその場から連れ去ってしまった。

オレの視界から、ソイツが消えていく ── ショックだった。

何者にも無関心で執着がないから、誰の手も拒まない。 同時に、無関心が故にソイツからは誰へも手を伸ばさない。 ソイツはただ、そこで待っているだけなんだ。 ソイツの前を行き来する奴らが、ソイツに対してどう言う行動に出るのかを。 興味も関心もなく、ただ淡々と、現実と事実だけをぼんやり見つめて待っている。

出会ってまだ数分と経っていなかったが、多くの仲間とつき合う内に身についた人を見る目ってヤツが、オレにそれを知らせてくれていた。 ソイツがどんなヤツなのか、自然と理解していた。

分かっていたのに、オレは距離を縮めることを躊躇った ── なんて、オレは馬鹿なんだろう。

オレは、強く拳を握り締めた。

そして、前を向く。腕を伸ばす。

ソイツの ── ソイツの陰に隠れていた、もう一人のソイツに向かって、強く強く、真っ直ぐに。

そして、オレはソイツの腕を取った。

ソイツは、やっぱり無関心な金の瞳でこちらを一瞥しただけですぐに興味をなくしたけれど、オレがソイツを必要としていることが分かったのか、実に仕方がないと言いたげな怠惰な態度でころりとオレの腕の中に収まってくれた。

「 ── とまあ、そんな具合でな~ 」

ホームルーム後の、至福のプリンタイム。

オレは、リョウに満面の笑みでソイツとの出会いを語った。

「 ・・・・・・ そう、なんだ ・・・・・・ 」

リョウは、プリンを咀嚼しながらそっと、カップの上蓋を眺めてそう呟いた。

その上蓋には、フランス王朝もかくやと言わんばかりの豪奢な宮殿の絵柄をバックに、金色の優雅な字体でこう書かれていた。

『 朝食プリン 黄金の眼差し ~優雅な朝の贅沢な味わい~ 』

「 な? 外装はフツーなのに、存在感バリバリだろ! も~、衝撃衝撃! まさにプリンインパクト! 使徒も青ざめるってヤツだぜ~!」

オレは、拳をぐっと握った。

「 コイツはいつか、プリン革命を起こす!」

そう言ったオレの顔を見たリョウは、何故だかわずかに身を引いて、無理をして笑っているように見えた。

今までリョウには結構な数のプリンを勧めてきたけれど、どうやら、まだまだプリンの真髄を究めて貰うには時間がかかりそうだ。

「 ── てワケでさ~。 オレは、リョウに是非ともプリンの真髄を極めて貰って、分かち合いたいんだ 」

夕陽が高層ビルの端にかかり、空が茜色に染まった夕刻。

オレは、レイとアルバーに満面の笑みで今朝の出来事を語った。

「 ・・・・・・ ねぇ、アルバー。 どこかに頭のネジ落ちてない?」

レイはプリンを食べる手を止めて、ベンチの足の下に大人しく伏せているアルバーにそう問いかけた。 アルバーはレイの言葉が分かるのか、一度周囲を見回した後、残念そうに目を伏せて鼻を鳴らす。

「 どうした、レイ? ネジ?」

「 ウウン、何でもない。 ところでさ、ハジメチャン ・・・・・・ 」

オレがレイの顔を覗き込むと、レイは哀れむような視線をオレに向けてきた。 何だどうしたと首を傾げてオレが続きを促せば、レイは観念したようにぽつりとオレへ告げてきた。

「 こう言う時、ボクは脳外科と精神科、ドッチの病院を勧めるべきなのかな?」

オレのきょとんとした双眸と、レイのため息が交錯する。

その背後で、アルバーが大きな欠伸をした。 どこかでカラスの鳴く声がした。

「 ── つーコトがあってよ~。 まだまだ分かってね~よなぁ 」

バイト帰りに立ち寄ったビリヤード場。

オレは、ヨツとハギとで小テーブルを囲んで、今日のプリンとそれにまつわるあれこれを語った。

「 単に、おこちゃまにはまだ早かったって話だろ、ソレ?」

「 プリン哲学を、藤咲みたいな素人に軽々しく語るな 」

「 いや~けどさ、プリン戦隊、作りたくね~?」

一刹那、二人の視線がオレに突き刺さった。 直前の和気藹々とした雰囲気が一瞬にしてかき消え、緊迫した沈黙がそれに取って代わる。

コン、と、どこかのテーブルでキューが玉を突き、弾ける音がした。

「 ・・・・・・ 乗った!」

「 俺も!」

「 よっし、じゃあ今から作戦会議な!」

相変わらずビリヤード場に屯す仲間達が、オレ達の会話を聞いて周囲で何事か笑っていたが、まるで気にならなかった。

その後暫く、オレ達は誰がレッドになるかで揉めに揉め、実に三時間、白熱したプリンバトルを繰り広げた。

── ああ、今日は何と充実したプリン日和だったことか。 アイツに、感謝しよう。

Data Information

WebClap
いいんじゃない?いいねいいよいいよーGJ !最高 !!
Date
2007-11-08 00:00
Category
original / 『 Contract×Killer 』 / 小説 / 番外編
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