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第壱話 『 Lecturing×Innocent×Enjoyment 』

それは、血の味と臭いにまみれた僕への、戒め。

無垢な快楽など、所詮は 「

初夏の風が、開け放たれた窓から心地よく入ってくる。 その風に髪を揺すられ、は手元を凝視していた顔を上げて窓の外の景色を視界に納めた。

眼下には青々とした緑が広がり、頭上には雲一つなく澄んだ青空が広がっている。 心地よいとは言い難いが、だからと言って容赦なく照りつける程ではない太陽の光に緩やかな夏の訪れを感じ、気持ちよさそうにその瞳を閉じて風を浴びた。

そんな了の元へ明るい声と騒々しい足音が近づき、唐突に自分の前の空席が埋まる。

「 オマエ、相変わらず一人の時ってぼーっとしてんのな 」

「 別に ・・・・・・。 ただ、空はあんなにも澄んで蒼いのにな ・・・・・・ って 」

── ボクハ 血ノニオイシカ シナイ ──

染髪して随分経つのだろう。 根本が黒くなった髪が無造作に跳ねた、眼鏡をかけた男子生徒が手に何やら半透明のビニール袋を持って了を覗き込んでくる。 了はそれに淡々と答え、男子生徒の持つビニール袋へ視線を寄越した。

「 何買ってきたの、ハジメ?」

その言葉を待ってましたとばかりに満面の笑みを湛えて、はかけていた眼鏡を外し、袋の中から一つのプラスチック容器に詰められた食べ物を取り出した。

それは、牛乳や卵を蒸し固めてその上にカラメルソースをかけた生菓子 ── プリンだった。

「 売店のプリン、滅茶苦茶美味くて人気あってよー。 今日、やっと手に入ったんだぜ、このプリン! も、すっげー マジダッシュで疲れたぜ~ 」

「 ハジメはプリン好きだよね。 ・・・・・・ そんなに美味しい?」

半ば呆れた視線を元に向けて呟いた了に、元は途端に真剣な表情になって了へその顔を近づけた。 窓外に広がる蒼穹に似た瞳が、了を捕らえる。

あまりの真摯さに思わず身構えて。

「 プリンを笑う者プリンに泣く! オマエ知らね~の?」

「 ・・・・・・ いや、それは違うと思うけど ・・・・・・ 」

発せられた言葉に、了は先程とは違う意味で更に呆れてわずかに脱力する。 だが、了の正面に座る元はそんなことなどお構いなしに、次々と売店から買ってきた本日の昼食を取り出しては了の机の上に並べて行く。 それに、了も思い出した様に鞄の中から弁当を取り出して、半分以上元が占領してしまった自身の机の上へ申し訳なさそうに置いた。

途端に、元が納得いかないと言う表情で机に置かれた物を指差してくる。

「 やっぱ納得いかね~。 なあ、リョウ。 同じ緑茶党として、旨茶は邪道じゃね~? この渋みと苦みが堪らなく緑茶だろ。 そうじゃね~?」

「 俺は緑茶なら何でも好きだから、特にこれだと決めてるわけじゃないよ 」

ずいと自分へ迫る元を前に了は至って平然と口を開いてみるが、元は両手で顔を覆うと言う大げさなリアクションでもって嘆きを表す。

「 何言ってんだよ、リョウ! いいか、旨茶はな~、渋みの素のカテキンを抑えてるから渋味があんまりないんだぜ。 渋くない緑茶なんか緑茶じゃねーだろよ 」

同意を求めると言うよりはむしろ、頷くことを半強制的に強いる剣幕でもって目の前で講釈を始めた元に、了は可笑しそうに口元に笑みを零した。 その笑顔をどう解釈したのか、元も満足げに生茶のペットボトルを傾けて思い切り喉に流し込む。

「 やっぱ生茶は堪んね~!」

一人満足げに笑みを零す元を横目に、了は視線を窓外に落とした。

緑溢れる中庭。 幾人もの生徒が、思い思いの場所で昼食を摂る姿がある。 その中の一点に、了は吸い込まれるように魅入る。 そこにいたのは、長い髪をツインテールに結った背の低い女生徒。 具合よく木陰の出来たベンチに座り、友人だろう静かで大人しそうな女生徒と弁当を広げている。 彼女の手の中にある弁当は、自分の手元にあるものと大きさこそ違えど中身は同じだ。 我知らず、幸せに満ちた笑みが了の表情を飾る。

「 どうした、リョウ?」

次から次に袋を開けてはパンを頬張っていた元が、箸の止まった了の視線を辿って身を乗り出す。 そして、そこに見知った者を見つけて声を上げた。

「 お。 末葉サン、発見~!」

気づくかな? そう言いながら、友人に顔を向けて笑い合っている末葉に向かって手を振ってみる。

「 オレ達も中庭で食えばよかったな、リョウ。 気持ちよさそうじゃね~?」

末葉達の隣、珍しく空いているベンチを指差して元が了に同意を求めるように笑いかけ、了は初めて気づいたように末葉から隣のベンチへと視線を動かした。

木陰から外れて燦々と陽の降り注ぐそこは、校舎の白壁に照らされて眩しい。 周囲には芝が広がって確かに教室の中にいるよりは気持ちよさそうに見えたが、了には少し木陰が欲しい場所に思えて、了の反応を待つ元に素直に頷きかねた。

同時に、一瞬だけ机の端に置かれた眼鏡が視界に入り、首を傾げる。

「 ・・・・・・ 眼鏡がなくても、見えるんだ?」

「 エ?」

「 眼鏡。 かけてないよね、ハジメ。 ここ、三階だよ?」

「 あ。 殆ど度は入ってね~んだ、コレ 」

「 伊達眼鏡なんだ 」

互いに窓の外に顔を向け、視線と声だけが相手を行き来する。

「 そ。 勉強頑張ってる学生っぽくね? コレかけてるとさ 」

「 ・・・・・・ そんな恰好で? 」

陽の光に透ける金髪、耳には幾つものピアスが重たげにぶら下がった元の姿。 そこに眼鏡を加えただけで ──

不意に、おかしくなって了の相好が崩れた。

「 ハジメって、変だね 」

「 エエッ? 何だよ、リョウ~。 形から入るってのも、大切だぞ?」

「 でも、そんな恰好で 」

「 コレは譲れね~の。 オレがコレからどうなってもさ 」

短い髪を指先で示し、ピアスを軽く弾く。

「 リョウにはねぇのか? 譲れないモノみたいの 」

「 俺? ・・・・・・ 俺は ・・・・・・ 」

呟きながら、了の視線は自然と末葉へと移動する。

笑うたびに、風が吹くたびに揺れる艶やかで柔らかい髪。 大きな優しい瞳。 白い肌。

と、了の視線に気づいたのか偶然か、末葉が箸を止めて了へと振り向いた。 同時に、了の隣で元が声を上げて、大きく手を振る。

「 おお! 末葉サン、気づいた気づいた!」

無邪気に手を振る末葉に了も手を振り返し、幸せに満ちた微笑を浮かべる。

── 彼女の、末葉の為なら ・・・・・・

そう、心中で呟いた時。

元の注意が窓外から手元へ向かった瞬間、末葉の顔が一瞬、酷く歪む。 微かに口元が言葉を形作り、それを読み取った了の顔から笑みがかき消えた。

── イツマデ 微笑ッテ イラレルカシラ? ──

嘲笑う残酷な笑みは、しかしそう言うと瞬時に消え失せ、一度の瞬きのあとには、末葉は愛らしい笑みを浮かべて友人と楽しげに会話に花を咲かせていた。

── 「 オ願イ 」 シテゴラン? ──

── 代償ハ ヒトツデイイヨ カンタンダロウ? ──

それは、血の味と臭いにまみれた僕への、戒め。

無垢な快楽など、所詮は 「

Lecturing×Innocent×Enjoyment

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WebClap
いいんじゃない?いいねいいよいいよーGJ !最高 !!
Date
2006-06-06 02:31
Category
original / 『 Contract×Killer 』 / 小説 / 本編
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